2014年9月12日金曜日

手放すことを恐れない


2014.月刊zero23 7月号の書き下ろしです。





 5月は久しぶりにトークセッションのお仕事をいただいた。
山形法人会が主催する経営セミナーで、メイン講師はファッションデザイナーのドン小西氏。テレビや雑誌では辛口のファッションチェックでおなじみだが、実は5年間のウツと15億の借金で苦しむ時代があったという。

体験を元に書かれた本『逆境が男の「器」を磨く』では、テレビドラマ半沢直樹よろしくとばかりの壮絶なシーンも綴られており、地獄の時代を経たからこそ書ける人生のヒントがまとめられている。

 29歳で独立してからの数年は、「色の魔術師」「ニットの異端児」といった異名を取って国内外でコレクションを開催し、国内だけでも50店舗を展開していたそうだ(ちなみにドン小西氏デザインのスーツは『メンズニシムラ』さんで扱っていましたよ)。

会社が大きくなればデザイナーの仕事だけでなく、経営者の役割も増えていく。

—一人で仕事を抱え込み、周りを見る余裕がない状況に追い込まれていた。気がつけば僕が信用でき、ついてきてくれる社員は誰もいなかった。そんな会社が健全であるわけはない。(著書より抜粋)—

結果として巨額の借金を抱えることになるのだが、このとき最も恐ろしかったのは金額の大きさではなく、あらゆるものを失っていく状況の変化だったのではないだろうか。

銀行が手のひらを返して冷酷な態度になり、社員の数年に渡る裏切りも発覚し、家族が崩壊し、スーパーカーを手放し、こんなときに限って免許まで失い、飼っていた犬もいなくなる。正真正銘の一人。孤独の闇に放り出された感覚を体験をしたからこそ、本物の強さとやさしさを得られたのだと思う。 

—「平穏無事」を求める人は、きっと「落ちる」ことを心配しているのだろう。日本の企業を見ても、安定を求め、変化を嫌ったために失敗しているケースが多い。僕が「人生の難所は買ってでも求めろ」と言うのは、難所を経ることは、自分の限界と可能性を知ることにつながると信じているからだ。(著書より抜粋)—


「売り上げの前年比を参考にしていては、会社は成長しないですよ」
セミナーでも経営も個人の人生もチャレンジしていく大切さをお話されていた。

年齢を重ねていくと、考え方も生活パターンも壊すことが億劫になる。どんなに悪癖であっても、人は慣れている方法を使おうとするものだ。

いっときの覚悟をすることで、実はもっと心地良い楽しい世界があるはずなのに、扉の手前にいるときはそれをイメージすることが難しい。とはいえ、「結果が分からないから何もしない」というのは、自分の伸びしろを止めているようなもの。

手放す行為は勇気がいるけれど、思い切ってやってみた後は案外と風通しがよく、清々しい自信で満たされていくのではないだろうか。


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